『ポッペンとプッピンと星の子とパスタ(下)』

 ポッペンと星の子が十秒間ほど互いの顔をみつめあっていると
「みなさん。そんなことよりもパスタがお待ちかねです。 おつきさまとパスタとどっちが先決か、どうでしょうね」
プッピンがお鍋をもってたたみかけるように言いました。
「これは失礼しました。ところでぼくはお腹がとても すいていまして……」

 ポッペンとプッピンのお皿の横に、もう一枚のお皿が出さ れました。
ゆげの立ったアスパラガスとハムのソースが三等分されまし たが、もう誰も意見をいう人はいませんでした。
みなとても お腹がすいていたからです。
 「いただきます」フォークを器用に使ってパスタをたべる星 の子をみて、 (ほんとうはごはんのにおいにつられて来たのではないかしら) チラリとポッペンは思ったものでしたが……。

「おいしかったです。ごちそうさま」
星の子はあっというまにお皿をたいらげるといいました。
「お礼にこれをさしあげますよ」
ポケットからとりだしたのは、不思議な粉の入った袋です。
「これは一種の薬草でしてね。どんなお料理にでも使えますから ためしてごらんなさい」

 それから三人は粉々に割れたお月さまをどうすればいいか 円陣を組んで相談をはじめました。
「まず破片をならべてみましょう、どこも足りないところがないか どうか」プッピンの提案で、白い紙の上にベッコウ色の月の破片が ならべられました。といってもそれはパズルほど簡単なことでは ありません。というのも不思議なことに、どの破片もみな似たような かたちをしていたからです。
 根気さでは誰一人横に並ぶもののないプッピンが、それでもようやく パズルを完成しますと、オヤオヤ真ん中あたりに10円玉くらいの大きさ の穴があいているではありませんか。
「どこかに落としてきてしまったのかなあ。おかしいなあ、全部ひろった はずなのに」星の子はしきりにそわそわしています。
「じゃあ先にこっちをやってしまおう」
せっかちなところのあるポッペンがさっそくアロンアルファのボンドを もってきて、バラバラになったお月さまを貼りつけはじめました。
「じゃあぼく、カケラをさがしてきます」
 そういってバタバタとドアから出ていったきり、星の子は戻ってきま せんでした。

 ポッペンとプッピンの修復の甲斐があって、お月さまはなんとか元の かたちになりました。それで、ベランダからボールを投げるようにして ポッペンが力の限りお月さまを上にほうりなげると、ペタン! とそれは 空にうまい具合にくっつきました。
 遠くから見てみると、どこが一ケ所欠けているのか、もうぜんぜんわか りません。
 それでも、満月の夜など二人は思い出したように月をじっとみつめずには おれないのです、ぶじ最後のひとカケラがみつかったかどうか、それから どこか一ケ所でも糊のはがれたところがないかと心配になって――。

 そうそう、言い忘れましたが、星の子にもらった不思議な香辛料は プッピンが朝のオムレツに入れようとしたときはもう、ただの空気になって いたということです――。


おしまい          


文/テクマクマヤコ


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