『ポッペンとプッピンと星の子とパスタ(上)』

 一日が終わって、ポッペンとプッピンは夕げの支度をしています。
 今夜のメニューはパスタです。いつものとおり、パスタをゆでるのは ポッペン。パスタの具を用意するのは、 プッピン。パスタがゆであがる までには、あと12分。ポッペンはそのあいだ、窓をあけて空を眺めてい たのです。

ガラス戸をあけると、パスタをゆでる匂いにまざって、かすかにプラム の木の花の匂い。真っ黒なインク色の空には、ハチミツ色の三日月がぶらりん、 まるで糸で不安定に釣り下げられているかのように変な角度に傾いていて、 そのまわりにはガラスビーズのような細かな星が、黒ビロードのような 夜空いっぱいに縫いつけられているのでした。

 そろそろお台所に戻ろうとポッペンが思ったそのとき、ビーズのような 星々のあいだをすべるようにして、ひとつぶの星がすごい勢いで急降下し てくるのが見えたのです。そう、それはなんといったらいいか、ちょうど 下り坂でブレーキのきかなくなった自転車がすごい勢いで降りてくるのと おんなじで、つまりは、ポッペンが呆気にとられて見ているうちに、 「ガシャン!」お月さまに衝突してしまったのでした。

「おやおやおやおや!!」「これはこれはこれは」
ポッペンは大慌てで台所に駆け込みました。
「プッピン、たいへん!すごいものみちゃった!」
「お星さまがお月さんに衝突したよ!」
「おや、そうですか」プッピンはお鍋の中をかきまぜながら、のんびり言うのです。
「パスタもどうやら、とっくにゆであがっていますよ」
 ポッペンが慌てて中をのぞくと、熱湯の中でぐるぐるダンスをしているのは 緑のアスパラガスで、パスタの方はもうとっくにザルにあげられているのでした。
「それで、どうなったの?」アスパラガスを注意深くかきまぜながら、 プッピンはいいます。
「どうなったって?」
「星がぶつかって、そのあと」プッピンにそういわれ、  ポッペンは必死で考えようとしましたが、不思議なことに何も思い出すことができ ないのでした。

「星がぶつかったあと、パスタがゆであがって、それからどうしたろう」
 そのときでした、ピンポ―ン、と玄関のベルが鳴ったのは。

つづく          


文/テクマクマヤコ


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