『ポッペンとプッピンの新しいともだち』

 プッピンは帽子やら洋服をつくるときにどうしてもどんなにがんばっても少しずつ余り布ができてしまうのを捨てられずにいたのでした。
「クッキーやパンだねであれば、まるめてしまってもうひとつふたつ何かつくることもできるのに」
 プッピンがいつもながらそうつぶやくと、「やったらいいじゃあないの。まるめて、ひとつにしてさ、」
そういうが早いかポッぺンはパンヤの残りをぐいぐいと丸めて何やら動物らしい形をつくったかと思うと、そこへプッピンが箱にどっさりためていた色とりどりの端切れをどんどん継ぎ足しはじめました。もちろんノリで、です。

 あっけにとられてプッピンが見守っていると、ものの三十分もたたないうちに、緑色のコーデュロイやら茶のツイードやらグレイの木綿やらピンクのナイロンやら、もうありとあらゆる生地がごちゃまぜに継ぎはぎされた妙ちくりんの小さなクマができあがりました。

「はあ〜すごい」そのあまりの妙ちくりんさにプッピンはもちろんポッピンも驚いて、しげしげとそれをみつめていたときです、ちょうどそこに魔女子さんが通りかかって「フッ」と息を吹きかけたのでたまりません。継ぎはぎのクマはニ本足で元気よく歩きはじめ、腕もバタバタさせて、そればかりか、「あの、何がどこにあって、だれが何なんだか」と大騒ぎするので、察しのいいプッピンが素早く選んだ葡萄色のガラスのボタンを顔の真ん中にぬいつけるとその目をパチクリさせて「やあ、これで見えるようになった。よかったよかったありがとう」と言ったのです。そしてプッピンとポッペンと魔女子さんに向かって、ピエロのようなお辞儀をひとつしたのでした。


「まあまあ、とにかく熱いお茶でもみんなでのみましょうよ。バナナケーキもありますし。」
 あっけにとられて立ちつくしていた一同に、そのときプッピンが実に素敵な提案をとなえました。
 どうしていいかわからないときに、とりあえず熱いお茶をのむ、というのは時に魔法のように素晴らしい効力を発揮するものです。

 はたして、ダージリンの紅茶の香りと熱い湯気とひときれのバナナケーキ(クリームとシナモンつき)とは一同の心とお腹をすっかりあたためたのでした。
「それで、ツギハギくんは、どうですかね。ケーキのおかわりなど…」
「ツギハギくんなんていやだ。もっと素敵な名前がいいや」
クマにそういわれたポッピンは、うーむと考えこみました。
「では、ツィギーは?」
「うん、それがいい、ツィギーがいい」
 クマはたいそう悦びました。それで、この瞬間から私たちも彼のことをツィギーと呼びたいと思います。
「ええもちろん、おかわりください」
 ツィギーはそういって、お皿をさしだしました。

 おりから咲きはじめたばかりの金木犀の香りがどこからともなく部屋の中に流れこんできました。
「いいにおい」
 みなはひととき、沈黙しました。まるで、おしゃべりをするとにおいが消えてしまうかのように。
「なんだかなつかしいにおいですね」
 しみじみとそう言うツィギーに、なぜ生まれたばかりなのに?と言おうとしてポッピンはハッとその言葉をのみこみました。
 自分も子供の頃、同じことを思ったことがあったからです。
「ねえツィギー、あなたよかったら、私の助手になってくれない?」魔女子さんがふと言いました。
「金木犀の香りを壜詰めにするの。今年はきっと、いい香りがたんとできると思うわ」
「ええよろこんで!」ツィギーがつぎはぎの頬を真っ赤にして大喜びしたのは言うまでもありません。そうと決まるが早いか、魔女子さんはツィギーを連れて風のように去っていきました。
「はやく、雨がふらないうちにいそがなくては!」
「おいしいお茶をごちそうさまでした。壜詰めができましたら真っ先にお届けしますわね」
 のみかけの紅茶とともに、そんな言葉を残して。

「雨がふらないといいね」
「ほんとにね」
 ポッペンとプッピンは話し合いながら、しばし澄んだ花の香りをたのしんでいます。


おしまい          


文/テクマクマヤコ


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