『金木犀とヒコーキ』
第一回全国手作りヒコーキ大会青少年部門に参加することになりましたという、ごく短いレターが届いてから、ツィギーからの連絡はぱたりと静かになりました。
「このレターぺーパ、薄荷の匂いがする」 スマッフィーは小さめの鼻をレターに近づけてくんくん匂いをかいでいます。 「いやインクの匂いかな」
「レモネードの匂いかもしれないな」
「空の匂いじゃない?」ポッペンはなぜだかそんなことを言ってみたくなりました。
「空って、匂いがあるの?」プッピンはおっとりつぶやきます。
「あるよ!」ポッペンは窓辺に走っていって、窓を大きく開けました。とたんに、つやつやした夜の闇がペンキのように部屋中になだれこんできました。その闇には湿った土の匂いやアスファルトの匂いや、どこかから漂ってくるらしいシチューの晩餐の終わりつつある匂いなどなどに混じって、いつもより早く咲きはじめた、澄んだ金木犀の花の香りが、ほかのすべての香りよりもすばやく、各自の鼻孔へと吸い込まれていったのです。
そして、鼻孔から各自の脳へと素早く駆け巡った金木犀の、不安で懐かしい香りは、プッピンやポッペンに、たった一年前のできごとを思い出させるに充分でした。
あれは10月の、細く長くつづく雨がまさに始まろうとする前の、重たげな青空が広がっていた日、魔女子さんは助手のツィギーと一緒に、金木犀の花の香りのエッセンスをガラスの小壜に閉じ込めようと懸命になっていたのでした。
あのときとまったく同じで、やっぱりこの10月もオレンジ色の砂糖菓子のような花はいっぱいに咲きほこっていて、昨年と同じように甘い、何かをそそのかすような香りを投げかけているというのに、そして今年もまた、勉強家の魔女子さんはエッセンスを小壜に閉じ込めることに熱中しているらしいのに、そこに助手のツィギーがいないのはどういうわけか? そして、そのツィギーが、空から便りを出したきり、こつぜんと姿を消してしまったのはまたどういうわけなのか?
一同はことばにこそ現さないものの、各自同じ思いを問うていたのです。
「手作り飛行機ってさ、」そんな空気を知ってか知らずか、スマッフィーは、夜の空の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、言いました。「それって、紙ヒコーキのことじゃないよね? 紙ヒコーキなら、ぼく、3種類もつくれるんだがなあ」
このちょうど同じ時刻に、やっぱり窓を全開にしていい匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、魔女子さんはつぶやいていました。
「紙ヒコーキのつくり方だったら、ツィギーに教えたんだけどね。それ以外のヒコーキなら私も研究しなくてはいけないわ。
……ところで青少年部門って、青少年って、もちろん女の人が参加したって、いい
のよね?」
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