『再会』
「コツコツ!コツ!」せわしなくガラス窓をたたく音がして、一同みあげると、もうほとんど葉っぱが落ちて裸同然となった外の木を背景に、いつかの郵便配達ツバメが羽をふるわせながら立っていました。
「たまたま大事な忘れものをとりにこなくちゃいけなかったから、ついでだったからだけど、羽がこおってどうなるかと思った」
ぽつりと一通の手紙を家の中に落とすと、つばめ氏はぞくぞく全身を震わせながらいうのです。そして、寒気や雷雨にあって配達がずいぶん遅れたことを、今頃は南の島で隠居生活を送っているはずだったのにと、くどくどと述べながらもぶじ手紙を届けてほっとしている様子でした。
「まあ、家の中でちょっとあたたまってからおいきよ」
ハチミツをお湯でとかしたホットドリンクをプッピンが運んできました。
あたたかなティーカップから次々と立ちのぼる透明な湯気をスチームがわりにして、つばめ氏はのびのびと羽を伸ばしました。
「その手紙をたくされた方はね、以前にうちの若いもんがトンビにやられそうになったところを助けてくださったのですよ」
みなはハッと顔を見合わせました。あわてて手紙を開くと、そのたどたどしい字で、必要なことだけが短くつづられた手紙の差出人は、ツィギーでした。
「XXヒコーキ大会にご招待します。ツィギより」
ポッペンはあわてて手紙をひっくり返しました。
裏はまっしろです。いえ雨風をくぐりぬけてきたらしく灰色です。
差出人の宛名は書かれていません。「ええ?これだけ?」
ツバメ氏は長旅の疲れからかぐっすり眠ってしまいました。この手紙がいったい、いつどこで投函されたものか、これではまるでわかりません。
ですから、そんなことがあった三日後、先の手紙の差出人本人がひょっこりと早朝の玄関に立ったとき、皆は一瞬、相手が誰だかわからないほどでした。
「ツィギー!?」パジャマ姿で駆けつけた皆の前に立っていたのは、ああ、しかしこれがほんとうにツィギーでしょうか? ツギハギの縫い目ももはやわからぬほどに全身まっくろにすすけて、プッピンがしっかり縫いつけた葡萄色のガラスの目玉も片一方はゆるんでとれかかったようになっているこの人物、これが私たちの知る、あの弱虫泣き虫のできそこないツィギーなのでしょうか?
「ぼくはこんなによごれるつもりはなかったのです」
我らのツィギーは言いました。「でもヒコーキにのっていたら、竜巻きにさらわれてしまって」
「で、ヒコーキは?」スマッフィーは勢いこんで聞きました。
「はなればなれになってしまいました」ツィギーはしずかに答えます。
「ヒコーキ大会は? 手紙にあった」ポッペンも聞きました。
「それはとうに終わりました。ぼくは四位でした」
みなはあんまりひさしぶりに互いの顔を見たので、大喜びするのも忘れるほどでした。
九ヶ月ぶりに故郷へ帰ってきたツィギーは、葡萄色の目をしっかりとプッピンにぬいつけてもらいました。そして端切れのほつけたところをつくろってもらったり、新しい端切れ(なかには銀いろの繻子も混じっていました。それはプッピンの「とっとき箱」から思いきって取り出されたものです)と交換してもらったりして、すりきれた肩のあたりには、11月の空のように濃い青色のマントーまで縫いつけてもらったものですから、ツィギーはまるで、空からおりてきたどこかの星の王子さまのような風情になったのです。
すっかり新しくなったツィギーをともなって、一同は魔女子さんの家に向かいました。いつぞやチューリップかクロッカスのような花型のとても素敵な新式の飛行機を製作していた魔女子さんは、今度はガラスのように透明な球体の乗り物を思案しているようでした。むろん図面の上でです。
「しゃぼん玉みたいだね」スマッフィーがいいました。
「ええそう。浮力や揚力の計算を重ねた結果、この形にたどりついたんです」
魔女子さんはあまりに熱心に図面を見ていたので、ひさしぶりの友だちがそこにいることに気づきませんでした。ひさしぶりの友だちは言いました。
「でもこれでは抵抗力がありすぎはしませんか」
魔女子さんはびっくりしてツィギーを見ていましたが、すぐに澄ました顔をして言いました。「では助手として手伝ってくださいな」
「仕事をとちゅうでほってしまわないと約束するなら、ここにいてもいいですよ」
とつけ加えるのも忘れずに。
それで、ツィギーと魔女子さんの二人は、今でも飛行機の研究をしているということです。
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