『ポッペンとプッピンのふしぎな靴』

 ポッペンとプッピンはひとつ違いの姉妹です。
 両親は遠い外国にくらしています。それで、はじめて二人の部屋にお邪魔した人は、きっと驚くに違いありません。なぜって、二人の部屋では、床に敷いているはずの絨毯が壁に貼られてあって、天井からはシャンデリアの代わりに、ルビー色やサファイア色をしたセロファンを貼りつけたふしぎな電気傘がいくつも垂れ下がったりしているものですから。
ポッペンにいわせると、これは「アラビア風」にしたものということですが、それも今日がたまたまアラビア風なのであって、その前はまるでジャングルの中のような「アフリカ風」、その前の 日はプッピンの好みにしたがって「教会風」(それはガラスのかけらに色をぬったものをステンドグラスと称し、窓という窓にはりつけていたものです)と、まあ二人の好みはなんともコロコロ変わるのです。

 つまり、毎日毎日同じクリーム色の壁と、チョコレート色の床と、透明なガラスに囲まれていることに、おとなしくしている二人ではないということ――。
 なにしろ、靴下といえばどうして三角形や星形の靴下がないのか。一日といえば、どうして二十四時間と決まっていて、三十時間や四十時間ではないのか、どうして、どうして――? と、二人ときたら四六時中、そんなことばかり考えているのですから! 
 それで、今朝二人が目を覚ましたとき、おひさまの光はすでに部屋中にこぼれんばかりにさしこんでいましたので、その様子にすっかり感心した二人はさっそく、どこかへでかけようと相談をはじめました。

「こんなにいいお天気なのだから、バター入りのパンをもって、おもてでごはんをたべましょう」とポッペン。
「そして、魔法壜には砂糖とミルク入りの紅茶をつめていきましょう」とプッピン。

 ところが大変、ポッペンが白いサンダルをはこうとすると、片一方がどうしてもみつからないのです。
「ポッペン、どこかに置き忘れてきたのではないの?」プッピンがのんびりそう言います。
「でも、プッピン、考えてもごらんよ、いったいどうして片一方だけサンダルを忘れてくるものですか。
ね、これはきっと、猫のキャットのしわざに違いないわ」

 猫のキャットというのは、向かいの家に住んでいて、飾り窓の中から置きもののふりをして、いつもポッペンとプッピンの方をじっと見ている、とポッペンが信じてうたがわないところの、猫です。
「またはじまった。あれはね、瀬戸物でできた置きものですよ。お母さんだって、そういってたじゃないの」
「プッピンはしらないの。わたし見たんだから、あれがまばたきするのを」
 二人はいそいで窓にかけよって、向かいの飾り窓の中をのぞきました。
 はたして、キャットの姿はありません。

「きっと、日曜だから、ハタキでもかけているんでしょう」
 プッピンにおっとりとそういわれると、ポッペンもなんだかそんな気がしてきます。
 問題は、ポッペンが外にはいていく靴がないということです。
「いいこと考えた、白い板っきれがあまってたでしょ。あれでつくりましょう」
 プッピンはそういうが早いか、いそいで板をけずりはじめました。
 早くしないと、せっかくのおひさまがかたむいてしまうからです。
 このプッピンはおっとりしているのですが、ものづくりの天才で、いつだってボロきれで素敵なスカートをつくってしまったり、パイ生地の残りで動物たちをこしらえたりして、ポッペンをおどろかせているのです。

 今も、またたくまに素敵な白い木靴をつくりあげました。
 ポッペンが足を入れてみると、まあなんと、ぴったりです。
 しかも、そのつまさきときたら、ツンと上を向いていて、どこかしら絵本に出てくる魔女の靴のようでもあります。
「だって、ポッペンは前に言っていたでしょう、つま先は下ばかり向いていて、つまらないって! 魔女が魔法を使えるのは、つま先が上を向いているからだってね!」
 プッピンは澄まして、言ったものです。

 さあ、紅茶やパンの準備もととのいました。
 おひさまの光はレンゲのハチミツのようにかがやいています。
 プッピンがつくってくれた白い木靴に、ポッペンは足を入れました。
 ポッペンの靴のつまさきは青空の方角を向いて、今にも地面から飛び立たんばかりです。
 ふわり、ふわり。二人は仲良く手をつないで、公園の方角にふわふわとスキップしながら歩いていきます。
 いつのまにかまた飾り窓のところにお行儀よく座った猫が、目をパチクリとさせて、そんな二人を見守っていました。
 
さあ、いったいどんな冒険がはじまりますことやら……。
おひさまはまだまだ、てっぺんにのぼったばかりなのです。


                                           文/テクマクマヤコ


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